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【翻訳】エドワード・スノーデンはヒーローか?

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もう5年も前のことになるが、元国家安全保障局(NSA: National Security Agency)職員のエドワード・スノーデンが香港のホテルにてガーディアン紙やジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏にNSAが行う様々な事業を告発した。スノーデンが暴露した情報はPRISMと呼ばれるGoogleFacebookが関わる個人情報のメタデータを回収する事業や大使館の盗聴などが含まれる。日本では大きな問題とされなかったが、アメリカや他の欧米諸国では一面スクープとなった。知らなかったけど興味があるよという人はWikipediaを読むなりNetflixでスノーデンの映画を見るなどすればいいだろう。

エドワード・スノーデン - Wikipedia

 

この事例について面白い議論をYoutubeで見つけたので翻訳して共有しようと思う。

一人はクリス・ヘッジス氏。米ニューヨーク・タイムズ紙などで特派員だった彼はピューリッツァー賞を受賞している。参考までに、ピューリッツァー賞とはジャーナリズム界隈のノーベル賞と考えても良いだろう。

もう一人はジェフェリー・ストーン氏。米シカゴ大学の法学部総長で、オバマ前大統領の顧問弁護士としても活躍した。

なお、このデモクラシー・ナウ!には二人のリポーターがいるが、此処では同じ「リポーター」として一人の人物の扱いとする。00:05から18:59までを翻訳する。読むのが面倒な人はスクロールすれば要約があるよ。

 

 

エドワード・スノーデンはヒーローか?

 

www.youtube.com

リポーター:ここでエドワード・スノーデンNSA(国家安全保障局)の重要な機密事項を漏洩したことについてディベートしましょう。ガーディアン紙の取材で、スノーデンが何故人生を棒に振るってまで情報漏洩を行ったのかについて説明しました。

 

スノーデン(VTR):民主主義の枠から外れたこのような国営事業に対して、大衆は何故このような行為を行うかについて質問をする権利があるでしょう。例えばもしも誰かが体制を倒そうとしていたらそれは民主主義には大変危険なことです。特に国が行う機密事項に幾度となく加担していて、後で報道機関に実はこういうことをやってますよと伝えた場合、大衆はあなたの味方をするでしょうか。大体の場合はそんなことなく、非国民だ!反逆者だ!と糾弾されます。しかし私は違う。私はごく普通の一般人なので、「これを私が決める権利はない。大衆がこのような事業が正しいか決めるべきだ」と思いました。ジャーナリストに生の情報を渡すことによって、公開された文書は改変されていない真正なものだと証明しました。

 

リポーター:(割愛。様々な専門家がスノーデンがやったことは正しいかを羅列する)ジェフェリー・ストーン教授、以前書かれた記事で「スノーデンは犯罪者だ」とおっしゃいましたが、スノーデンが何故罰されるべきだと思われるのかご説明ください。

 

ストーン:まず第一に、現在の法律は機密情報を外部に漏らすことを禁じている。単純な法的見解としてスノーデンが違法行為を行ったのは火を見るより明らかで、もし起訴されたら有罪になるだろう。他の人がこれを賞賛するかは知らないが、法律に違反したかどうかは何一つ関係ない。何故彼が罰を受けるべきかというと、スノーデン本人が「私は一般人だ」と言ったが正にその通りで、法律や政策について素人である技術者が誰にも相談せず機密情報の危険性を何も知らずに第三者に渡したことは非常に無責任だからだ。スノーデンの行動が長期的に見て良いかどうかは別の問題で、明らかに犯罪だ。

 

ヘッジス: ここでの論点は「報道の自由がまだあるか」だ。もしもスノーデンやマニング、アサンジのような人がいなかったら報道の自由は存在しない。スノーデンがガーディアン紙に情報を提供したというのは内部告発がよくやることで、報道機関が機密文書の内容をよく調査し、国に悪影響を与えないかを考察した上で大衆に公開している。よって「一般人がインターネットに情報をばらまいた」といった言い方は違う。もっと重要な事は、もし報道機関に国が犯す違憲行為を通報することができれば、そのような企画を潰すことが出来るということだニューヨーク・タイムズ紙の元特派員として言えることは、国の内密情報を調査することが不可能になっているということが本当の論点だ。

 

リポーター:ヘッジスさん、ストーン教授はスノーデンの「私は一般人だ」というところをご指摘されました。もしも機密事項だとしても、「国民が知るべきだ」思った情報を情報局の社員が好きなように扱ってもいいと思いますか?

 

ヘッジス:そのような考え方が道義心そのものだ。我々特派員の生活の糧はスノーデンのような内部告発者が権力の悪用を暴くこと生き様そのものだ。スノーデンは実際今言ったようにグレン・グリーンウォルドやガーディアン紙に情報を提供し、報道機関内で精密な調査が行われた末に一般公開された。スノーデンの行ったことは違法かと言われると、正確に言えば違法だが、国が犯す更に大きな犯罪に対抗した。もしも犯罪者が国を動かしていたとしたら。犯罪者がウォールストリートで詐欺を行っていたとしたら。犯罪者がブラックサイトで拷問を行っていたら。犯罪者が暗殺を企てていたら。犯罪者がアメリカ国民に嘘をついて国際法に違反する戦争を継続していたら。もしもストーン教授のように法律に保守的になれば、犯罪者を援護しているのと何ら変わりがない。行政の大半が犯罪者に占領されている言っても過言ではない。

 

リポーター:ストーン教授、どうお考えですか?

 

ストーン:少なくとも私が知っている限り、何一つ違法行為は行われていない。政策として酷いのかもしれない。私は知らんが、このような事業が違法や違憲であると言った意見は早急すぎる。ヘッジスさんやスノーデン氏が喜ぶかは知らんが、少なくとも何一つ違法行為はない。

 

リポーター:ストーン教授、2006年のブッシュ政権時代のNSAの情報収集に対し他の弁護人とともに批判していましたが、その時のものと比べてどうお考えですか?

 

ストーン:ブッシュとオバマの情報収集事業は全く別のものだ。ブッシュ政権NSA情報収集は外国情報監視法に反抗して生成された。オバマ政権の情報収集は第一に国会で承認されている。第二に、ブッシュ政権は電話での音声記録を行っていたが、司法では個別の逮捕令状がない限りは合衆国憲法修正第四条に違反するとされている。オバマ政権の事業では電話番号が記録されている。そして司法では電話や銀行、図書館や商品の番号の記録というのは第三者に漏らさない限りは合法であるとされている。憲法修正第四条にも違反していない。よって全く別の事業だ。

 

リポーター:しかしマサチューセッツ工科大学の数学者のスーザン・ランドウ氏は「メタデータは実際の録音記録よりも重大だ」とおっしゃっていますが、ストーン教授はそのようなメタデータを含むよう法律が変わるほうがいいとお考えですか?

 

ストーン:正直に言わせてもらうと、更に重大ということはないでしょう。まあ問題だとは思うし、民間企業や国営事業がメタデータの収集を制限する法令があったほうがいいだろう。実際に最初は最高裁判所の決定は間違っていると思ったし、将来この法律が変わることは期待できる。でも現状の法律がどうかと言われると、違法ではないし違憲でもないし、ブッシュ政権の情報収集事業とは全く異なる。

 

リポーター:ヘッジスさんはどうお考えですか?

 

ヘッジス:かなり多くの弁護士がストーン氏に反対している。

 

ストーン:多くはないぞ!

 

ヘッジス:ACLU(アメリカ自由人権協会)は最近憲法修正第四条に違反していると民事訴訟を起こしている。

 

リポーター:ストーン教授はACLUの代表を務めていらっしゃると思ったのですが、ACLUが訴訟を起こしていることについてどうお考えですか?

 

ストーン:いいんじゃないですか!彼らは問題定義をする権利があるし、それが彼らの役目でもある。事業が違憲かどうか疑問を持つことが彼らの仕事だ。必ずしも正しいとは限らないが、裁判にかけて戦うことが彼らの義務だ。

 

リポーター:ヘッジスさん、多くの人が言う問題というのは、万が一国が違法行為を行っていた時にそれを指摘する術が存在しないことだと言われています。スノーデンの場合も同じことが言えると思われますか?

 

ヘッジス:以前にはありましたよね。報道機関というのだが。そして内部告発者が提供した情報は報道機関内で厳重に取り扱われ、情報を提供したことを追求されることがないと決まっていた。しかし現在は報道機関と腐敗した司法組織は国家組織的なクーデターにより機能していない。話を戻すと、この場での根本的な論点というのは「我々は今後、第三者として独立した報道機関が国の内密情報を捜査するかどうか」だ。以前は我々多くが国が監視をしているのではないかと疑っていたが、スノーデンが表に出ることにより確定した。というよりも彼はどうせバレる覚悟でいたんじゃないか。グレン・グリーンウォルドとのメールや電話のやり取りが全て記録されているので、誰と会話をしているのかが一瞬でバレるのだ。元特派員として言わせてもらえば本当に鳥肌が立つ。過去数年に渡って行われた様々な国営プロパガンダや組織的犯罪者を調査したり潰したりすることが一切できなくなったのだ。

 

リポーター:ストーン教授、情報を公開したガーディアン紙の記者も起訴されるべきかどうかをお尋ねしたいです。共和党のピーター・キング議員はCNNの質問に対しこのように言っていました。

 

キング:もしガーディアン紙がスノーデンの流した情報が機密事項だと理解していたら、何かしらの罰則が加えられるべきだろう。特にこのスケールの問題ではだ。このような情報公開によって安全保障が懸念される場合には問題だ。

 

ストーン:普通に違う。例えばペンタゴン・ペーパーズについての最高裁判所の判断によると、ダニエル・エルズバーグ氏は公務員として国家の情報を盗んだ罪で起訴出来るがワシントン・ポストニューヨーク・タイムズは起訴できないと決定されている。司法判断によると、国は公務員に対し情報を公開しないよう情報そのものを制御することが出来るが、一度情報が漏れたら情報機関を罰することは出来ないとされている。言われてみれば少しおかしいが、報道機関は報道の自由を担保されている代わりに、国は機密事項を機密事項として制御する権利を有することが出来る仕組みなのだ。つまりグレン・グリーンウォルドやロイター通信、ガーディアン紙を起訴することは不可能でしょう。

 

リポーター:ストーン教授、それでではエドワード・スノーデンペンタゴン・ペーパーズ事件時のダニエル・エルズバーグと似たような状況にあるとお考えですか?また、今回のガーディアン紙の動きはニューヨーク・タイムズの役割と比較することが出来ると思いますか?

 

ストーン:私が知っている限りで言うと、スノーデンはもっと酷い状況に置かれている。ダニエル・エルズバーグの公開した情報というのは古い情報で、国家の安全に直接的な危害を加えるものではなかった。一方スノーデンが公開した情報というのは現在進行系の事業で、安全保障において重要であると言われ、公開することによって効果が薄れると言われている。それはかなりの問題であり、エルスバーグの時はそうではなかった。

 

リポーター:ストーン教授、しかしヘンリー・キッシンジャーは「エルスバーグはアメリカで最も危険な人物だ」と言ったため、少なくとも当時は安全保障を揺るがす存在だったのでは。

 

ストーン:いやいや、キッシンジャーが言ったのは全ての調査を終えてどんな情報が公開されたのかを根掘り葉掘りした前だ。数年後、もしくは数週間後には危険な人物ではないと発覚している。まあこの二つのケースに関してはある程度は比較ができるだろう、エルスバーグが齎した危険と、スノーデンが齎した重大な安全保障の損害においては。自由権についてもう一つ話そう。もしもアメリカ合衆国で自由を守りたかったら、自由だけでなくテロからも守らなければいけない。同時多発テロがまた起きたら、合衆国の自由はさぞ簡単に破壊されるだろう。もしも国がテロを警戒していなかったら、もしまたあのようなテロが起きたら、今現在の国営事業が吹けば飛ぶようなものになるだろう。つまり、どのようにこの国の安全保障を守るかというのは実は複雑な質問なのだ。

 

ヘッジス:私はこれが安全保障を揺るがすとは到底思えない。私はニューヨーク・タイムズで特派員としてアルカイダを調べ上げたが、これは確信して言える。奴らは監視されていることを十分承知している。よってスノーデンの情報公開によりジハードの過激派がメールアドレスや電話番号、サイトの情報が漏れていることにビビったみたいな考え方こそ馬鹿げている。我々が議論しているのはアメリカ国民大半の大量の情報であり、この結果はものすごく怖い。このような状況により、国の行っている事業に対する第三者の捜査が出来る可能性が全て排除されている。ブラッドリー・マニングが提供した情報が安全保障を揺るがした証拠がないのと同じように、スノーデンの行為が安全保障を揺るがすという証拠は存在しない。現在の監視国家が行っているのは恐怖で人々を翻弄し様々な形で自らの利益になるようしている市民社会や民主国家でそのようなことはあってはいけないため我々は戦っているが、正直負けている。

 

リポーター:……(この後は同じような議論が不毛に続くので割愛。このあたりからキング牧師の名言などを元に議論をしようとする。ストーン氏は一貫して違法であると主張しヘッジス氏は報道の自由の重大さを繰り返し話すが、もう既に書いた情報であることと話が平行線になっているので省略)

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要約と考察

スノーデンは情報局の契約社員だった時に様々な事業が違法行為であると考えた。この時、スノーデンには2通りの方法でその違法行為とみなされる事業の正当性を問うことが出来た。

  1. 司法を通じ、裁判にかける
  2. 報道機関のフィルターを通した上で大衆に公開する

通常の場合、1を選ぶ。当たり前だが、違法行為をしているのはスノーデンではなくNSAそのものだ。裁判所は本来NSA契約社員が情報を公開しても良い唯一の第三者的空間だろう。しかし、もしも最高裁判所がこのような事業の正当性を認めていたとしたら。それでもスノーデン本人が納得していなかったら。

ストーン氏曰く、裁判所と国会がこのような情報収集を良しとしている。つまり、このような事業を裁判所で告発した所で負けるのはほぼほぼ確定している。

だから2を選んだ。大凡大半の内部告発者が通るルートだが、一か八かの賭けだ。そもそもスノーデンは契約社員なので、スノーデンが仕事で得た情報を第三者に公開することは本来違法だ。しかしヘッジス氏が言うように、違法行為で更に大きな違法行為(もしくは違憲行為)に対抗していたとしたら。スノーデンの犯した「罪」を法の力ではなく民衆の力で決めさせようといった賭けなのだ。

更に、これは情報漏洩ではない。内部告発とはマスコミと言うある種信頼性のある人間に情報を渡し、どの情報を大衆に公開すれば安全保障に傷をつけずに安全に権力に歯向かえるのかを決めてもらうことであり、インターネットに情報をばらまく漏洩とは異なる。スノーデン本人は「ごく普通の一般人」であるため」、安全保障などにもっと詳しい人達に責任を託すことはある意味間違った行動ではない。

メディアというのは第四の権力(forth estate)とさえ言われる。三権分立においてもしも全ての権力が間違いを犯している場合のチェックアンドバランスとして機能する。実際、スノーデンが表に出たことにより最高裁はいくつかの事業を違憲/違法だとみなしたことから、法外の力が働いたことは事実だろう。

ストーン氏とヘッジス氏の根本的な意見の違いは、メタデータの収集がどれだけの力を持つかということだ。ストーン氏は法の支配を強く推していて、少なくとも最高裁での判決ではメタデータの収集は盗聴ではないため問題ないとされている。しかしヘッジス氏の立場としては、そもそもそのような司法のシステムが腐敗しているというのだ。

それこそ何千人何億人の単位の情報を記録するときには、実際に話している内容よりも「誰が誰と繋がっていたか」「どれだけ話していたか」「データの容量はいくつか」「ユーザーの現在地はどこか」と言ったメタデータの方が応用が効く。そもそも内容をいちいち盗聴した所で処理するには時間がかかりすぎる。そのような情報収集を可能としている合衆国の司法を批判しているのだ。

もしも司法が「間違い」を可能としていると仮定すると、ジャーナリストは権力が乱用された時にそれを告発することが出来なくなる。そのような事を調査する術が失われるのだ。

しかし、ストーン氏の反論にも一理ある。それは同時多発テロの直後に自由と安全保障のバランスが一度崩壊した、ということだ。

何千人の命が失われたあのテロの後、ジョージ・ブッシュ大統領は様々な大統領令を発行して国の安全保障を一気に底上げした。イラク戦争が勃発したのも、(少なくとも名目上では)アメリカ合衆国と国民の安全保障が目的だった。

そして皮肉なことに、そのような戦争や大統領令はアメリカが誇る民衆の力が可能にした。こうして自由と安全保障のバランスが変わったのだ。

つまり、PRISMやバウンドレス・インフォーマントなどの事業というのは皮肉にもアメリカの自由を守るためのものである、ということだ。しかしヘッジス氏はそのような事業こそがアメリカの自由を壊すと主張し、ここが議論の終着点となる。

 

この自由と安全保障のバランスというのはとても興味深い。僕が思うに、少なくとも民主主義には2つの側面があって、法の支配と民衆の力というのは積が常に一定だ。つまり法の支配を強めすぎると民衆の力と言うのは制限される。第四の権力を含むチェックアンドバランスが効かないところまで来ると民主主義そのものが崩壊する。少なくとも現状の議論が示すものは、安全保障を強めるツールとして法の支配の方を全開にした結果と言える。

民主主義が壊れる状態っていうのはそれこそ虐殺器官1984みたいなディストピアのことで。それはちょっと言いすぎかもしれないけれども、少なくともこの議論を見ている感じだとそういった世界に移ろうとしているのは確かだ。

ここで出てきそうな処方箋は第四権力に変わるインターネットやSNSを使った市民ジャーナリズムなのだが、スノーデンが暴露したことを元に考えると普通に却下。そもそもそのようなサイトがPRISMなどに加担している背景を省みると、実は法の支配が民衆側を押しつぶすモデルそのものだったりする。

5年も前の事件だが様々な点で今日の社会と共通点があると思う。どちらにしても、人類が崩壊の方向に向かっていることを再確認出来るビデオだったと感じた。